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Chit Chat #7
隣の家の芝
(Dの前にはスクランブルエッグ、Sの前にはパスタ。間にどっちつかずのコーヒーカップ2個。)
D「それ、美味そうだな。」
S「そっちのも美味そう。」
D「いや、待て。俺たちは今、騙されているに違いない。」
S「何がどうして?」
D「ここの店の食べ物が、そう美味いわけがない。」
S「たまに妙〜に美味いのもあるけどね。」
D「それは否めない。しかし、普通の料理が美味かった試しは、未だかつてない。ここで美味いのは、そう一般的でない料理のみだ。」
S「言えてる。」
D「そして、スクランブルエッグとパスタは、一般的な料理だ。」
S「でも、あんたが頼んだの、オムレツじゃなかったっけ?」
(2人、スクランブルエッグを見つめる。)
D「……それは、まあ、よくあることだ。」
S「うん。卵料理進化論ってやつだろ?」
D「何だって?」
S「卵料理進化論。ダーウィンとエラスムスによって唱えられた理論。ハイスクールの生物の時間に習ったよ。」
D「卵と鶏のどっちが先かって論争じゃなくて?」
S「チキンはソテーにするかシチューにするかしかないじゃん。ソテーがシチューに進化することはよくあるから、ダーウィンとエラスムスも敢えて理論として立証しようとはしなかったんじゃないかな。」
D「じゃあ卵はどうしてそんな大層な理論の材料になったんだ?」
S「そりゃ卵は、フライドエッグ、オムレツ、スクランブルエッグ、ポーチドエッグ、ボイルドエッグって、いろんな料理法があるからね。」
D「……わけがわからんな。でも、1つだけ確かなことがある。」
S「何?」
D「お前、ハイスクールの生物の先生に騙されてる。そんな理論、あるわきゃない。」
S「マジで? それ、ケチャップかける前に一口ちょうだい。」
D「マジで。そっちのも、タバスコかける前に一口くれ。」
(DとS、お互いの皿に手を伸ばして、一口味見する。)
S「あ、案外美味い。」
D「うん、そのパスタもいける。アルデンテを3分通り越してる以外は。」
S「これは、あれだね。」
D「どれ?」
S「隣の芝生は青いってやつ。」
D「ああ、人のものはよく見えるってことか。ちょっと違うがな。」
(D、スクランブルエッグにケチャップを山ほどかける。S、パスタの上でタバスコを振り続ける。)
S「隣の家に芝生なんてないなあ。」
D「あのアパートの隣か? 似たようなアパートが並んでるもんな。」
S「隙間に空き地って言うか公園って言うか何かそんなのがあって木は生えてるけど、庭らしい庭もないし。あんたんちの隣には芝生あったっけ?」
D「ああ。……いや、あれはこっちの芝生かな?」
S「もしかして、窓の下んとこ?」
D「そう、そこ。何か草が生えてなかったっけか?」
S「あれは芝生じゃなくて、単に雑草が生い茂ってるだけじゃん?」
D「そうだったかもな、雑草ならあり得る。お前、芝生のある家に住みたいのか?」
S「いや、全然。隣の家に芝生ってないもんだなーって思っただけ。」
D「芝生のある家の隣にあるアパートを探して住めばいいだろ。」
S「家賃高そう。」
D「お前の実家の隣には芝生なかったっけ?」
S「覚えてないよ、隣のことなんて。実家の庭に芝生があったかどうかさえ怪しいんだし。今度行ったら、見てくる。」
D「ちょくちょく行ってんのか、実家。」
S「あー、呼ばれた時に行くぐらい。何、デビーのこと気になる?」
D「そういうわけじゃないがな、俺は長いこと実家帰ってないんで。」
S「そう言えば、あんたの両親のこと、話に出てこないよね。……あ、ごめん……。」
D「何謝ってんだ?」
S「え、もう死んだんじゃなくて?」
D「早とちりすんじゃない、失敬な。まだ生きてるよ。ピンピンしてる、とは言い難いがな。」
S「どこに住んでんの?」
D「両親か? オタワ。」
S「オタワってカナダの?」
D「フィジーのオタワって可能性は却下か?」
S「フィジーにもオタワってあんの?」
D「ないよ、冗談だ。」
S「わかった、あんた、自分の親のこと、俺に知られたくないんだろ。」
D「いいや、別に知られたって構わないぞ。お前の両親のこと、俺はよーく知ってるしな。」
S「……あんまり知らなくていい。あいつらは俺の小さい頃のことを知ってる。」
D「そりゃあ知ってるだろうな。俺は知らんが。」
S「本当に聞いてない? 俺のガキの頃のこと。」
D「何で俺がお前のガキの頃の話をあの人たちからわざわざ聞かにゃならんのだ?」
S「例えば、親父が酔っ払ってぽろっと言っちゃったとか。」
D「親父さんとサシで飲んだことはあるが、お前の話なんか一言も出てこなかったな。」
S「じゃあ例えば、お袋がゲストルームのシーツを敷きながらぽろっと言っちゃったとか。」
D「ゲストルームなんてあるのか? 俺はソファに寝かされたぞ?」
S「え、あるよ、ゲストルーム。広くて綺麗で、俺たちは立入禁止。あんた、ソファで寝たの?」
D「……歓迎している振りをして、密かに迫害してたな、奴ら。」
S「今になってわかる事実ってやつだね。今度オタワ行く時、俺も連れてってよ。」
D「何で? カナダ旅行したいのか? 言っとくけど、熊は見られないぞ。」
S「熊を見に行こうってんじゃないよ。俺、あんたの両親に会ってみたい。」
D「著しく物好きだな。と言うか、老人好き?」
S「仕事柄、老人慣れはしてるけど、そういうんじゃなくてさ。あんたに親がいんの、何か信じられなくて。」
D「それで、確認しようってわけか。」
S「うん。カメラ持ってく。で、ついでに、隣の家に芝生があるかどうか確かめる。」
D「連れていってやってもいいが、旅費は自分持ちだぞ。」
S「ええ〜? 車で行くんじゃないの?」
D「オタワまで車で、か? お前が運転するって言うんなら、それでもいいが。」
S「飛行機で行こう。」
D「ほら見ろ。で、お前、仕事の休み取れるのか? 俺の休みとお前の休みが合わないことには、一緒に行こうったって行けないだろ。」
S「俺の方は、仕事入れなきゃいいだけさ。カーラに“この期間は無理”って前もって言っておけば大丈夫。」
D「本当に大丈夫かどうだか怪しいもんだ。お前、この間“絶対休み取れるから”って言い切って、こっちの町内会のゲートボール大会、ドタキャンしたじゃないか。」
S「ああ、あれね。あの日はマジで無理だったんだよ。パーネヴィックさんとこの家政婦が盲腸で入院しちゃって、緊急呼び出し。俺がいなかったら、パーネヴィックさん死んでたね。」
D「どうせ近々死ぬんだから、半日ぐらいゲートボール大会に顔出してくれたっていいだろ。お前が来ないってんで大変だったんだからな。」
S「人手足りなかった?」
D「人手は足りてた。ただ、お前のファンたちが反乱を起こしかけた。“スティーブ坊やが来るから、なんて言ってワシらを騙くらかしおって”って、スティックや杖を振り上げたご老体がじわりじわりと押し寄せてきた。」
S「……怖いな。」
D「ああ、怖かったよ。その日の夜は夢にまで見て、うなされたぞ。」
S「でも、袋叩きにはならなかったんだろ?」
D「奴らスローだったから、逃げられた。」
(Dがコーヒーカップに手を伸ばすとすぐにWが来て、そのカップにコーヒーを注いで去る。もう1つのカップには、コーヒーなし。)
S「ウェイトレスも老人だったらいいのになあ。どうして俺、若い女の子に好かれないんだろ?」
D「(コーヒーを啜りながら)その辺をじっくり考えてみようか?」
S「遠慮しとく。」
D「何でだ。せっかく前向きな提案をしてるのに。」
S「若い女の子に好かれない理由がわかったところで、それが解決する方法がない類の事柄だった時に悲しすぎるから。」
D「後ろ向きだな。じゃ、その話はやめようか。」
S「ああ。」
(D、更にコーヒーを一口啜る。S、食べ終わったパスタの皿をよけてコーヒーを飲もうとして、ふとカップが空であることに気づく。黙ってカップの白い底を4秒ほど見つめる。)
S「やっぱ、ちょっと考えてもらっていい?」
D「いいとも。どうした、気が変わったか?」
S「うん。恋愛以前にね、俺がコーヒーを貰えない理由と近い辺りに根っこがあるんじゃないかと、薄っすらそんな気がしてさ。」
D「いいところに気づいたな。それはあるかもしれん。じゃあ、どういう風に話を進めようか?」
S「どうにでも。」
D「そうだなあ……俺が質問するから、お前はそれに答えるってのはどうだ。質疑応答の中から、お前が若い女の子に好かれない理由を探してやる。それでいいか?」
S「オッケー。」
D「えー、何から行こうかな。まずは、あれだ、出会いのチャンスがあるかどうかだ。」
S「うん。」
D「ここ1週間で話をした20歳から35歳の女性を列挙せよ。それから、話した内容も。」
S「1週間? ええとね、カーラ。」
D「会社の子だな。」
S「俺が“ローランドさんとパーネヴィックさんのどっちかの担当を外してほしい”って言って、彼女が“どっちもダメ”って言った。」
D「それは仕事の話だろう。」
S「うん。だって会社の子だから。」
D「他に何か話はしてないのか、雑談とか。」
S「雑談ねえ……。あ、爪が黒かったから、“ドアに挟んだ?”って聞いた。そしたら、“失礼な”って言われた。」
D「マニキュアだったんだな。」
S「そう。何でわかるの?」
D「黒いマニキュアくらい普通にするだろ。」
S「ホント? マニキュアって、赤とかピンクだと思ってたよ。」
D「黒とか緑とか、銀ラメとか、モスグリーンとか、いろいろあるんだ。」
S「詳しいね。」
D「ああ。カミさんのドレッサーの前に100本ばかし置いてあったからな。……で、他には?」
S「カーラとした話? ……うーん、ちょっと思いつかないな。」
D「じゃあ、カーラはいい。次だ。他に喋った女は?」
S「ええと、アンナ。」
D「初めて聞く名前だな。」
S「うん。年は、ええと25歳くらいかな? 北欧系で、キム・ベイシンガーに似てる。」
D「ほう、美人じゃないか。」
S「もしくは、正面から見たワニにも似てる。」
D「……ちょっと微妙になってきたぞ。で、そのキムもしくはアリゲーターと何を喋った?」
S「アリゲーターよりはクロコダイルっぽい鼻の皺なんだけど。えーと、話か。話はね、彼女が“パンは白か茶色かどっちにする?”って言って、俺が“白”って答えた。でもって、俺が“パストラミの量を半分にして、タマネギを倍にして、マスタードを5倍にして”って言って、彼女が“オッケー”って言った。」
D「サンドイッチ屋か。」
S「うん。会社の下の。割と美味い。コーヒーは苦いけど、ドイツ式だって言うから我慢して飲んでる。」
D「職業上や商売上の会話はいいから、もうちょっとこう……何かないのか、友達としての会話を交わした子とか。」
S「友達? うーん……。うーーん…………あ、デビーとは喋ってるよ、週3回くらい。」
D「お前、俺の娘と、俺の3倍喋ってるな。」
S「妬ける?」
D「妬けはしないが、少し羨ましい。」
S「あんたの前のカミさんとも週3回くらいは喋ってるよ?」
D「それはちっとも羨ましくない。例え俺の100倍喋っていようとだ。」
S「いつも思うけど、あんたの話聞いてると結婚する気が失せるよね。」
D「悪しき前例として心に刻んどけってことだ。……で、他には?」
S「他って?」
D「1週間で喋った女。」
S「ああ、……以上。」
D「1週間で喋った女、カーラとサンドイッチ屋だけか。」
S「そうね、そうなるかも。」
(D、黙ってSを見つめる。)
S「何? 何か悪い?」
D「いや、悪くはないが……お前、寂しい暮らししてんな。」
S「そんなことない。たまたまこの1週間がこんなだっただけ。」
D「じゃあ質問を変えるぞ。一番最近、女の子としたデートは、いつどこで誰とだ?」
S「デート?」
(S、しばし黙考。)
S「……野球見に行ったのって、デートになる?」
D「ああ、なるとも。お前、そんな健康的なデートしてんのか?」
S「(得意気に)まあね。」
D「で、誰とだ。」
S「んー、誰と……だったんだろう? わかんない。」
D「あん? 何だそりゃ。お前、自分がデートした相手もわからんのか。老人とつき合いすぎてボケが移ったんじゃないか?」
S「わかる、わかるよ、自分がデートした相手くらい。そうじゃなくて、あれは結局誰とデートしたことになるのかなって、その辺がちょっと不明なだけ。」
D「……なあ、例えお前以外全員が女の子だったとしても、複数と行ったのはデートじゃないぞ。それはただの行楽。具体的に言うと野球観戦だ。」
S「複数で行ったわけじゃないんだよね。行った時には俺1人だったし。」
D「ますますわからんな。」
S「ちょっと複雑な話なんだよ……聞く?」
D「伺いましょう。」
S「事の起こりはね、そう、3週間と3日前。場所はローランドさんの家。」
D「やっぱりそっち方面か。」
S「いつものように、朝、俺が行ったらね、ローランドさん、ひどく落ち込んでたんだ。」
D「ほう。この季節はな、老人性鬱病が発症しやすいんだ。」
S「え、それ本当?」
D「信じるな、出任せだ。……で?」
S「で、“どうしたんですか?”って聞いたの。そしたらローランドさん、“自分はもう長くないかもしれん”って言い出して。」
D「その推測は正しい。」
S「うん、正しいんだけど、“そうですね”って言うわけいかないじゃん、職業柄。」
D「そうだな、簡単に死なれたら商売上がったりだからな。そうでなくても、お前の周りじゃバタバタ老人が死んでるし。これ以上死なれたら本当に死神にされるぞ。」
S「いや、それはいいんだ。老人って放っておいてもどんどん増えるし。」
D「ネズミかゴキブリみたいに言うんじゃない。だが確かにそういう意味では、お前は安定した商売についてる。」
S「安定しすぎて忙しいよ。老人の増加に俺1人じゃ対応できない。そう、それだからね、ローランドさんが若い女の子たちと話でもしたら、少しは生きる意欲が湧いてくるんじゃないかって思ってさ。ほら、話相手が俺ばっかだと、鬱々するじゃん?」
D「ああ、それはなかなかいい考えだな。男はいくつになっても、若い女の子にちやほやされると活性化するもんだ。」
S「でしょ。だから、ローランドさんに“どっかに出かけようか”って言ったんだ。“どこがいい?”って。そしたらローランドさんが“野球が見たい”って言うから、野球を見に行くことにしたんだ。ちょうど地域の少年野球大会があってさ。」
D「大リーグの試合じゃなかったのか。」
S「そんなチケット手に入らないよ。それで、“一緒に行こうね”って約束して、ケンに女の子たちを都合してもらったんだ。」
D「ケンってのはお前の同僚だっけか? そいつ、ポン引きでも兼業してるのか?」
S「ポン引きしてるかも。まず、ケンは女系一族の出なんだ。それに、女性の友達が多い。その上、奴の知り合いと言ったらほとんどが女。ともかく、ケンの周りは女ばっかなんだ。だから、女性の扱いも上手くて、それで余計に女が奴の周りに集まる。」
D「素晴らしい人生だな。でも、それだけ女が多かったら、中には変なのもいるんだろ? うちのアレみたいな。」
S「とんでもない、ケンの周りの女性陣は、美人で気立てがよくて、慈愛に満ちた、飛びっきりの人たちなんだよ。」
D「不公平だ! そんな奴、許しちゃおけん!」
(D、ダン! とテーブルを叩く。Wが来て、Dのカップにコーヒーを注ぐ。S、哀しそうな目でWの動きを見つめるのみ。)
S「だろ。だけどね、ケン本人もすっげーいい奴なんだ。」
D「俺よりも?」
S「ああ? コーヒー分けてよ。」
(D、Sのカップにコーヒーを分ける。)
S「うん、あんたよりも。」
(D、さらにSのカップにコーヒーを分ける。)
S「あんたと同じぐらい。」
D「よし。それで、どうなったんだ?」
S「ローランドさんとは野球場で落ち合うことにして、俺が約束の場所に行ったら、ローランドさんは孫の試合を見に来た婆さんと仲よく話し込んでた。ケンが担当してる婆さんね。旦那に先立たれて、息子一家とは別居してる、あのいつも犬を10匹ぐらい散歩させてる……誰だっけ?」
D「町内老人事情には詳しくないんでな。」
S「そうだよね。で、ローランドさんがそんな調子だから、俺は、ケンが呼んでくれた女の子とデートできるなって思ってさ。」
D「それを狙ってたな?」
S「まあ、ちょっとはね。で、来たんだよ、いろんなタイプの女の子たちが。ただし、1人15分間ずつ、入れ替わり立ち替わり。俺、何回“スティーブさんですか?”って聞かれたかな。“はい、ケンの同僚のスティーブです。今日は来てくれてどうもありがとう”って言った回数と同じだと思うけど。」
D「それは、デートではないな。」
S「あー、やっぱり。」
D「わかったよ、お前が若い女の子に好かれない原因!」
(ぶっつり終わる。)


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