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Chit Chat #11
変な言葉
(Dの前にアイスクリーム乗せアップルパイが、Sの前にヨーグルトが運ばれてくる。)
S「オーダー、ミスった。」
D「知ってる。普通、男はダイナーで夕食後にヨーグルトを頼まない。」
S「俺はヨーグルトが食べたかったんだから、ヨーグルトを注文したのはいいんだけど、何もかかってないとは思わなかった。」
D「何かかかってると思ってたのか? ミントシロップとか。」
S「ブルーベリージャムとか、ラズベリージャムとか。」
D「そもそもヨーグルトってのは、どう食うべきものなんだ?」
S「知らない。俺は砂糖を入れる。」
(S、砂糖のボトルを取って、ヨーグルトの上で逆さにする。)
D「トルコでは塩を入れるらしい。」
S「歌って踊れる木彫りの上手い政治家に聞いたの?」
D「ああ。お前、砂糖入れすぎ。」
S「ヨーグルトには、砂糖は“入れすぎ!”ってくらい入れなきゃ。」
D「ヨーグルト。ヨーグールト。ヨグールト。」
S「何?」
D「変な言葉だなあ、と思って。」
S「英語じゃないからね。」
D「何語なんだ?」
S「ブルガリア語じゃない?」
D「ブルガリア語って、どんなんだ?」
S「知らないよ。」
D「“ヨーグルト”ってどんな意味なんだろうな?」
S「“ヨーグルト”って意味なんじゃん? この酸っぱくて白い物体を意味してるんだよ。」
D「じゃなくて。語源的に。」
S「知るわけない。自慢じゃないけど、俺は砂糖のことを何で“シュガー”って言うかも知らないんだからな。ヨーグルトのことまで知ってるはずないだろ。」
D「“シュガー”の語源は、古代サンスクリット語まで遡る。」
S「本当?」
D「多分。しかし、それ以上のことはわからん。」
S「ピロシキは?」
D「ロシア語だよな。」
S「スキヤキは?」
D「日本語だろ。」
S「俺には同じ国の言葉に思える。」
D「そう言われてみれば、そうだ。」
S「ハラペーニョってさ。」
D「スペイン語だな。」
S「エル・ニーニョと似てるよね、音的に。」
D「どっちもスペイン語だからな。」
S「あ、そうか。」
D「って、納得するなよ。同じ言語だからって言ったら、アップルパイとアイスクリームが似てるってことになっちまうだろ。」
S「ボンジョルノとメルシーも似てないし。」
D「それ、違う。」
S「え? 違う? 両方ともフランス語だろ?」
D「ボンジョルノはイタリア語だ。」
S「あれ? そうだった? じゃあフランス語だと、えーと、何だっけ?」
D「ボンジュールだ。」
S「もしかして、あんた、カナダ出身ってことは、ひょっとして母語はフランス語?」
D「いや、英語だ。フランス語も、わからなくもないがな。日常会話ぐらいは何とか。」
S「カッコいいな、バイリンガル。」
D「お前は?」
S「いろいろ習ったけど忘れた。漏れなく使えるのは英語だけ。」
D「……英語すら満足に使えてないじゃないか。」
S「俺、何か変なこと言った?」
D「“漏れなく使える”ってどういう意味だよ?」
S「漏れるところなく。余すところなく。」
D「待て、漏れてんのと余ってんのじゃ、逆の意味だろう。」
S「余ったら漏れる。」
D「何の話をしてるんだ?」
S「ええと、こう容器があって、水を入れると、余った分は漏れる。」
D「それは、漏れるんじゃなくて、零れるんだ。漏れるっていうのは、たとえば……たとえば何だろう?」
S「漏れるって言ったら、尿かなあ……。」
D「……尿だな……。」
(しばらく2人、無言でそれぞれのデザートを食べる。)
S「……他の例、思いつこうよ! 尿だけじゃ、俺たち、寂しいし、みっともなさすぎる。」
D「“尿”って言い出したお前が悪いんだけどな。」
S「あんただって同意しただろ、“尿”に。」
(D、辺りを見回す。)
D「ダイナーで“尿”を連呼するのもどうかと思うぞ。」
S「“糞”よりゃいいんじゃん?」
D「ああ、“糞”も漏れるな。」
S「そっか。あ、それと、放射能! 放射能も漏れる!」
D「漏れるのは、放射性物質。もしくは放射線。放射能ってのは、放射線を出す能力のことだから、能力は漏れない。」
S「じゃ、漏れるのは、放射性物質もしくは放射線。」
D「素直だな。」
S「よくわかんないから。」
D「バカで素直。弟として理想的だ。」
S「もう弟じゃないんだけど。」
D「だからこそ理想的なんだ。」
S「…………それって、遠回しなプロポーズ? 俺への。」
D「熟考の末の言葉がそれか。お前にプロポーズして、今、俺に何か得することがあるか?」
S「うーん、強いて言えば前の家族とまた親戚になることくらいかな。」
D「あの時代をもう一度やれってか。それだけは勘弁してくれ。」
S「うん。きっと家族も同じ理由で反対すると思う。サミュエルは喜ぶかもしれないけど。」
D「サミュエル? お前のバカ犬が何で俺と親戚になりたがる。」
S「そりゃあれだよ、家族に、自分より位が下の奴が入るから。今サミュエル、家の中で一番位が低いじゃん?」
D「あの家における俺の位置は、バカ犬より下なのか!」
S「最初はね、やっぱり。その後、どう巻き返していくかは、あんたの努力次第……あ、あった、あった!」
D「……何が。」
S「漏れるモノ! 情報! 情報は漏れる!」
D「ああそうだな、情報は漏れるな。」
S「もうちょっと感激しろよ、せっかく見つけたんだから。……でも、何で情報って漏れるんだろう?」
D「隠してるからじゃないか?」
S「隠してると漏れるわけ? 隠してるのに?」
D「おおっぴらにしてる情報が漏れたって話は聞いたことがないからな。」
S「じゃあさ、漏れちゃ困る情報は隠さなきゃいいってことか。」
D「違うだろ。漏れちゃ困る情報ってのは、言い直せば“知られては困る情報”だ。最初っからおおっぴらにしていい情報は、漏れてもいいんだ。」
S「あ、そうか。トイレで出した尿は“漏れた”って言わないもんね。」
D「トイレでも、朝顔に届かない場所で出た尿は“漏れた”だ。」
S「違うよ。それは“零した”とか“しくじった”じゃない?」
D「どっちでもいい。」
S「ズボンの中に出したら、それは、すべからく“漏れた”だけどさ。あ、じゃ、ズボンの中に隠しといた情報が知られた場合は、“漏れた”だね、これは絶対。」
D「……ズボンの中に、何の情報を隠すんだ、お前は。」
S「俺が隠すわけじゃないよ。」
D「じゃあ誰が?」
S「CIAの人とかFBIの人とか。」
D「いや、奴らはズボンの中に情報は隠さないだろ。」
S「そうなの?」
D「恐らくな。」
S「マイクロフィルムを絆創膏で尻に貼っておくといいと思うんだけどなあ。」
D「マイクロフィルムは、21世紀である現在、使われてないと思うぞ。あれは、冷戦時代の産物じゃないか?」
S「マイクロウェーブオーブンもその頃の産物だね。」
D「ズボンの中に入るもんじゃないな、そりゃ。」
S「誰がマイクロウェーブオーブンをズボンの中に入れようなんて言った?」
D「誰も言ってない。」
S「あんたのズボンの中には入りそうじゃん?」
D「お前が俺のズボンの中に入れようと思ってるのは、マイクロフィルムか? マイクロウェーブオーブンか?」
S「マイクロウェーブオーブン。話を遡って、放射性物質でもいい。」
D「よくない! そんなものを入れられたら、俺が困る。」
S「俺は、俺のズボンの中に俺の意思に反するものが入るのは、すべからく困る。」
D「俺だってそうだ。特に、俺がそのズボンを履いている最中はな。」
S「履いてない時にでもやだ。」
D「そう言えば、お前、中学生の時、ズボンの中にカマキリの卵を入れられたって話だな。孵化寸前の。」
S「そう言うあんたは、酔っ払って、ズボンの中にニシンの燻製を入れて帰ってきたって話だね。」
D「……そんなこともあったな。」
S「そのニシンの燻製さ、あんたの意思に反するものじゃなかったんだろ? 何でニシン? でもって、そのニシンどうしたのさ?」
D「酔っ払ってたんだぞ、何でそんなことしたのか覚えてるわけがあるまい。さらに、なぜニシンが選択されたのかなんて神のみぞ知る。神さえわからんかもしれん。しかし、酔っ払っていない時のことは覚えてるぞ。あのニシンは、しばらく証拠物件としてキッチンに置いてあった。いつの間にかなくなってたが。」
S「食ったの?」
D「いや、捨てたんだと思う。結構臭かったしな、最後の頃は。」
S「イームスの椅子の燃えカスより?」
D「そこまでは臭くなかった。使ってない冷蔵庫よりも。」
S「俺、時々さあ、“冷蔵庫(フリッジ)”って言おうとして“フリンジ”って言っちゃうんだよね。そういうの、ない?」
D「ない。……いや、ないこともなくもない。」
S「何? 何々?」
D「お前、やけに楽しそうだな。」
S「うん、あんたの失態、楽しいから。」
D「俺も、お前の失態話を聞くのは楽しい。」
S「ま、そんなもんだよね、人生。で、何?」
D「言っても、お前、落ち込んだり引き篭もったり鬱になったりしないか?」
S「俺と関係のあることなの?」
D「って言うか、お前の名前。」
S「俺の名前?」
D「つい“スティーブン”って言いそうになる。」
S「何だ、それしきのこと。俺ね、滅多にちゃんと呼ばれないから大丈夫。」
D「ちゃんと呼ばれなかったら、それがお前のことかどうかわからないだろ?」
S「その辺は何となく臨機応変に。」
D「名前だぞ。そんな適当でいいのか?」
S「うーん、普通に呼んでもらえればそれに越したことないんだけど、何せ、クライアントの年齢が。」
D「お前の客の年金生活者たちな。それがどうした。」
S「人の名前、ちゃんと呼べると思う?」
D「そうか。俺ですらスティーブンとスティーブを間違えるんだから、確かにお年寄りにはキツイかもしれんな。」
S「1年以上つき合ってるお客さんはさすがにスティーブかスティーブンって呼んでくれるんだけど、新規の場合はもう、Sで始まる名前で呼んでくれればいい方。下手すりゃ“マーマイン”とか“トパンガ”とか、どっから拾ってきたんだっていう名前で呼ばれてるもん、俺。」
D「そりゃ、あれだろ、離れて暮らしてる息子とお前を間違えてるんじゃないか。」
S「そのパターンはコトナーさんちの“ジェイク”だね、今なら。」
D「トパンガは?」
S「わかんない。けど、こないだそのお客さんとこの庭に、“トパンガの墓”ってのがあったから、生き物だったんじゃないかと思う。」
D「犬猫に間違われてるのか。」
S「クジャク……かもしんない。そこの家、クジャクが多いから。他の動物も多いけど、確率的にはクジャクが一番高い。」
D「鳥の名前で呼ばれてお前、よく自分のことだとわかるな。」
S「だから、その辺は臨機応変に。でも、行けばちゃんと紅茶とクッキーが出るから、俺のこと人間だとはわかってるんじゃないかな、クジャクはアールグレイ飲まないだろうし。ああそうそう、あんたも知ってるんじゃない? そのお客さん。フレイザーさんって言うんだけど。」
D「何で俺がお前の客を知ってるんだ?」
S「表通りの薬局のオヤジのオヤジだから。」
D「ああ、フレイザー薬局のご隠居か。じゃ、トパンガはクジャクじゃないな、亀だよ、亀。」
S「亀?」
D「ああ。前に店主が、“可愛がってた亀が死んでから、父親の呆けが加速した”って言ってた。墓まで作ってあるってことは、その愛亀の名前だったんだろ、トパンガっていうのは。」
S「亀か〜。クジャクの方がよかったな俺。」
D「……どっちも一緒だと思うがな。」
S「何で? クジャクならさ、美しい羽を広げて一日庭を闊歩してればいいんだろ? 亀はほら、月夜の晩に泣きながら産卵しなきゃいけなくて、辛そうじゃん? 俺、痛いのヤだよ。」
D「誰もお前に産卵しろなんて言ってない。それに、都会で海亀は飼わないだろ。」
S「海亀? 泣きながら産卵するのは海亀だけなわけ? じゃ陸亀は? 産卵しない?」
D「陸亀だって産卵するが、泣きながら産卵するのは海亀で、陸亀の産卵シーンはあまりにもマイナーすぎて、人々の知るところじゃない。……その前に、お前、男だろ。万が一、お前が亀で、それも海亀だったとしても、産卵するのは不可能だ。」
S「おー、なるほど。助かった。俺、男でよかった。」
D「俺も、お前が男でよかったと思うよ。」
S「何で?」
D「笑い飛ばせるからな。女性相手じゃ、逸話を聞かせてもらっても、そうそう笑い話にはできん。」
S「俺を笑いの種にすんの、やめてくれって言ってるだろ。」
D「お前を笑わずして、誰を笑えってんだ?」
S「……姉貴。」
D「それは笑い事じゃない。俺にとっちゃ、罵りの種だ。お前、俺に罵ってほしいか?」
S「ヤダ。まだ笑われてる方がいい。」
D「だろう?」
S「……俺さ、いっつもあんたに上手く言いくるめられてるような気がすんだけど。」
D「気のせいさ。俺はお前を言いくるめようなんて、かけらも思っちゃいないしな。」
S「そんならいいや。」
D「(小声で)騙してやろうとは思ってるがな。」
S「何? 何か言った?」
D「いや何も。ところで、知ってるか? トパンガの名前の由来。」
S「知るわけない。何? アフリカの酋長の名前?」
D「近い。アフリカにガボンって国がある。そこにメリリモラという名のそれは美しい女性がいた。彼女の美貌は、彼女の村だけでなく、その先の、もっと先の村まで知れ渡っていた。彼女の村から遠く離れた、と言ってもガボン国内ではあるんだが、遠くの遠くの村に、彼女の噂を聞いて、どうしても彼女を一目見てみたくなった男がいた。」
S「その男の名前がトパンガか。」
D「違う。急いては事を仕損じるぞ。続きを聞け。その男はメリリモラに会うために、彼女の村に行くことにした。しかし、飛行機があるわけでもなし、電車もなし、バスも車さえもない。自転車すらない。歩いていくしかないわけだ。山の向こうの彼女の村へ。」
S「山? 山なんてあんの? アフリカって砂漠しかないと思ってた。」
D「何バカなこと言ってんだ。サバンナだってジャングルだって高山だってあるんだぞ、アフリカには。キリマンジャロはアフリカ、って知らなかったか?」
S「それは知ってた。でも忘れてた。」
D「覚えておけ。話を続けるぞ。山の向こうの彼女の住む村へ、噂に恋した男、名前をタヤロイガと言うんだが、この男はともかく旅立った。だが、この男には婚約者がいた。あまり美しくはないが、心優しい女性で、彼女はタヤロイガのことをそれはそれは愛していた。」
S「その子の名前は?」
D「忘れた。まあ、大した役割じゃないから、名前なんざどうでもいい。その女性は、婚約者が山の向こうへ旅立った後、明けても暮れても泣いていた。そして、村は涙の中に沈んだ。女性も村人も、みんな溺れ死んでしまった。」
S「そんなの、あるわけない。」
D「誰が実話だなんて言った? よくある民話だよ。」
S「で、トパンガは?」
D「……あ、悪い、その話じゃなかった。」
S「何だよ〜。」
D「トパンガはアフリカじゃなくて、あれだ、オセアニア。」
S「オーストラリアとか?」
D「ミクロネシアとかメラネシアとかそんなとこだ。その辺りの小さな島に、それはそれは美しい女性がいた。」
S「さっきと同じ?」
D「いや、違う。その女性は、美しかったんだが目が見えなかった。そして、素晴らしく美しい声で歌った。名前をヤピラと言った。」
S「だいぶ設定が細かくなったね。」
D「彼女は、歌うことで生計を立てていた。歌って、その代わりに何か食べ物を貰うんだな。彼女が歌うと、鳥たちは唱和し、周りに花が咲き乱れたと言う。ある風の強い日、彼女の歌声は隣の島まで流れ、その歌声に、隣の島の人々はうっとりと聞き惚れた。隣の島の王は、その歌声の主を一目見てみたくなって、家来の1人を呼んで、隣の島に渡って彼女を連れてこい、と命じた。家来は丸木舟に乗って、隣の島へと向かった。しかし、折り悪く、タイフーンに巻き込まれ、家来は海の藻屑と散った。」
S「その家来の名前がトパンガ? ……じゃないよね?」
D「じゃない。この話は長いぞ。何せ、オセアニアの聖書と呼ばれている話だ。王のわがままは延々と続き、家来はどんどんと犠牲になり、海中の“魚の王国”、天空の“鳥の王国”、さらに上の“星の王国”までもが舞台になり、5代目ヤピラ辺りで精霊と人間の区別がつかなくなってくる。この辺は、俺も記憶が怪しい。バナナとキャッサバの区別ができなくなってる。と言っても、俺がバナナとキャッサバを区別できないってんじゃなくて、バナナの精とキャッサバの精がそれぞれ8代目ヤピラにどんな試練を与えたかがごっちゃになってるだけだ。」
S「……もういいよ。トパンガって何なの?」
D「うーん、難しいな。トパンガが何かを知るには、この物語の根底に存在している自然観および世界観を理解しなきゃならん。」
S「そう……それじゃ、俺、“トパンガは亀”でいいことにする。そのうち、フレイザーさんが掻い摘んで説明してくれるかもしんないし。」
D「恐らく、説明しているうちに死ぬぞ、ご隠居。」
S「俺もそう思う。」


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