J.S. バッハ幻の「結婚カンタータ」復元コンサート

J. リフキン/バッハ・コンチェルティーノ大阪

(2005年3月21日、サントリーホール・小ホール)

 

バッハの時代、結婚式はふつう教会で行われたから、結婚式用のカンタータはたいてい「教会カンタータ」である。それに対して、教会外で行われた特別な結婚式や結婚披露宴、仲間内での結婚祝いパーティーで演奏されたカンタータは「世俗カンタータ」である。要するに教会で演奏されたかどうかで区別しているわけだ。バッハの作品で前者に当たるのがBWV195、196、197の3曲で、後者に属するのが有名なBWV202と210。コラール楽曲が含まれるものは間違いなく教会カンタータだが、そうでない曲がどちらに属するかを、何を手がかりにどのようにして決めるのか、筆者は知らない。それはともかく、「もう一つの結婚カンタータ」として知られていたBWV216(この曲の場合は聖トーマス教会の隣のワイン酒場で演奏されたことがわかっている)は、バッハ自筆の総譜や弟子による器楽パート譜は現存せず、唯一伝えられていた声楽パート譜セット(Sop、Alt)も1920年以来、行方不明になっていた。それが昨年の春、往年の名チェリスト、ガスパール・カサドの夫人でピアニスト、原智恵子氏の遺品中に発見されたのだ(現在は国立音楽大学所蔵)。日本発のニュースが世界を駆けめぐった。オリジナル資料の再発見により、新バッハ全集版についても、改訂すべき点が明らかになったという。

礒山雅氏の依頼を受けて器楽パートの「推定復元」を試みたのは、音楽学者で指揮者のジョシュア・リフキン氏。この作品はデュエットを含むアリア4曲とレチタティーヴォ3曲から成り、このうち第3曲と第7曲のアリアはそれぞれBWV204、205からの転用とわかっているが、BWV216の復元ではオブリガート楽器が若干変更された。また、第1曲(デュエット)と第5曲(アリア)のオブリガート楽器には、それぞれオーボエ2、および独奏ヴァイオリンが選ばれた。演奏前にステージに登場した礒山氏は、「この作品の復元者は、一流のバッハ学者であり、また一流の演奏家であり、しかも優れた作曲家でなければならないが、この条件をすべて満たす人として、私はリフキンさんしか知らない」といっていた。誰しも異存はないだろう。もちろん、今後ほかにもいろいろな復元が行われるだろうし、それはまた歓迎すべきことでもあるが。

そのリフキン氏の指揮により、BWV202、210の2曲とともに、東京(20、21日)と大阪(25日)で「世界初演」されたのだ。ソリストはスウェーデンのスザンヌ・リディーン氏(Sop)とノルウェーのマリアーネ・ベアート・キーラント氏(Alt)。ほかにBWV202は藤崎美苗氏、BWV210は佐竹由美氏。

BWV216は期待に違わず充実した作品(?)だ。デュエットが2曲もあるのが、またいい。バッハの320回目の誕生日に、新たに作品リストに加わった名曲を、世界に先駆けて聴く機会を得たという、幸運な巡り合わせに感謝するほかはない。

(ガンバW、 2005年3月)