Steven Isserlis
"Why Handel Waggled his Wig
(And Lots More Stories about the Lives of Great Composers)"

Faber and Faber Ltd (2006/5/18) amazon.co.jp

 

「ヘンデルはなぜカツラを振り乱すのか?」という愉快な題名をもつ本書は、有名なチェリストであるSteven Isserlisによる子供向けの作曲家紹介シリーズの第2弾である。第1弾は2001年発行の「Why Beethoven Threw the Stew」(ベートーベンはなぜシチュー皿を投げつけたのか?)。以前その邦訳(「もし大作曲家と友達になれたら…」、音楽之友社、2003年)を読んで楽しんだので、第2弾は原書で読んでみた。

廉価なペーパーバックで300ページ近い本書は、題名になったヘンデル以外に、ハイドン、シューベルト、チャイコフスキー、ドヴォルザーク、フォーレについての紹介がされている。内容は、イッサーリス本人が前書きに書いているように、もともとが自分の息子に語りかけるつもりで書いたものであり、話しかけるように書かれているし、随所に子供を飽きさせないジョークや掛け言葉もちりばめられており、絵のない劇画を読んでいるようにリズム、テンポがあって読みやすい。例えばヘンデルの章は、ドイツなまりをからかいながらも、ドイツに生まれイギリスで花開いたヘンデルの生き方を描き、(カツラのエピソードも含め)ぐいぐいひきつけられるし、ハイドンの章は、もう老年になったハイドンをウィーンの邸宅に読者と一緒に訪ねる設定になっており、ウィットと皮肉にあふれた会話を通じて、ハイドンの生涯を気づかぬままに感じてしまう。

しかし内容の本質は、直球で書かれており、第一級の作曲家紹介になっている。何よりも良いところは、演奏家でもある著者が、演奏を通じて大好きになった作曲家を選び、演奏家としての経験や直感も働かせながら、歴史的なエピソードや曲、演奏などを組み立てている部分で、学者では決して出せない強みではないかと思う。

子供向きと思うなかれ、話し言葉で作曲家と演奏を感じられる良書であると思う。(邦訳はリズムを出すのに苦労しそうだが第1弾は成功しているので、楽しみである。第2弾では原書のペーパーバックの精神を生かした装丁と価格帯をお願いしたい。)

(SH、2007年1月)