池辺晋一郎 『モーツァルトの音符たち』

(音楽之友社、2002年6月刊) bk1

 

テレビのN響アワーでおなじみの池辺晋一郎氏が、軽妙な(でも計算された)語り口で、モーツァルトの楽譜を解きほぐし、作曲の舞台裏を覗かせてくれる。音楽学者の目線ではなく、作曲家・演奏家の目線で、音楽に内在するダイナミックスや仕掛けを説明してくれる。

中にはわれわれが演奏会で取り上げた曲や練習した曲もあり、こちらも「そうそう」と相槌を打ちたい部分や、知っているつもりが「目からうろこ」の部分もある。特にテーマとメロディーラインの力学を語った「交響曲第40番の生態」や、自然に見える曲想の裏に緻密な計算があることを明らかにした「ヴァイオリン・ソナタ ホ短調」などは秀逸。思わず、2年前に発行された同じ著者による『バッハの音符たち』を読み返してしまった(こちらも同様の名著)。

(SH、2002年6月)