バロック・コンサート with 小野萬里

カメラータ・ムジカーレ第52回演奏会 プログラム・ノート

(2012.12.1 sonorium)

●ルクレール/2つのヴァイオリンと通奏低音のための序曲 作品13 第2番 ニ長調

ジャンマリー・ルクレール(1697-1764)はバッハやテレマンよりも少し若い世代で、ヴァイオリンの名手としてパリで活躍しました。

作品13は2つのヴァイオリンと通奏低音のための3つの序曲と3つのソナタからなる曲集です。2つの旋律楽器と通奏低音(チェンバロまたはオルガンと低音旋律楽器)によるトリオは、バロック時代の室内楽で最も好まれた編成です。「序曲」といってもこの曲には3つの楽章がありますが、第1楽章が付点リズムの堂々とした部分で始まり、このスタイルがオペラの序曲でよく使われたので、このような形で始まる多楽章の曲全体を指して「序曲」と呼ぶ習慣がありました。

●バッハ/ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 第5番 ヘ短調 BWV1018

ヨーハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)は小編成の室内楽曲もいくつか遺していますが、典型的なトリオ(2つの旋律楽器と通奏低音)によるものは2曲だけです。そのかわり、旋律楽器のパートの1つをチェンバロの(通常は和音を奏する)右手に託し、通奏低音パートはチェンバロの左手だけ、つまり1つの旋律楽器とチェンバロだけで(2人で)演奏するという、節約型のトリオが11曲もあります。

ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタは全部で6曲あり、その中で第5番は最も厳粛で高貴な悲壮感が漂う名曲です。第3楽章ではヴァイオリンが終始重音を弾き続け、オルガンのような効果をだしています。

●テレマン/パリ四重奏曲 第4番 ロ短調

ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681-1767)は全ヨーロッパで絶大な人気を誇ったドイツの音楽家で、室内楽の分野でもおびただしい数の作品を遺しています。6曲から成るこの四重奏曲集は、テレマンがフランスの高名な音楽家たちに招かれて1737年にパリを訪れたときに作曲し、翌年当地で出版されたため、今日では「パリ四重奏曲」と呼ばれています。当時はフランスの音楽家による作品しか出版を許されていなかったフランスで、ルイ15世の特別許可を得たことからも、フランスの最先端の音楽趣味を豊かに取り入れたこの曲集がいかに高く評価されたかがわかります。予約購入者名簿にはテレマンの親友だったバッハの名前も載っています。

室内楽ではふつう通奏低音楽器であるヴィオラ・ダ・ガンバ(またはチェロ)に独奏パートを与えたことも、この曲集の特徴の一つで、とくに第4番ではそのヴィオラ・ダ・ガンバの独奏が目立ちます。

●バッハ/リコーダー、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ト長調

前述のようにバッハは2つの旋律楽器と通奏低音のためのトリオ・ソナタを2曲しか遺していませんが、実際にはもっと多く作曲した(後世に伝わらなかった)可能性もあります。また、円熟期に作曲した6曲のオルガン・ソナタはすべて、右手と左手が対等に独立した動きをし、たった一人で演奏する究極の節約型トリオですが、いくつかの楽章は、若い頃に書いた2つの旋律楽器と通奏低音のためのトリオ・ソナタを編曲して流用したのだろうと考えられています。そこで、「原曲」を想定して、さまざまな楽器編成でトリオ・ソナタを「復元」する試みが盛んに行われています。

本日はオルガン・ソナタ第 1 番(変ホ長調)の右手パートをリコーダー(アルト・リコーダーよりも音域の低いD管、別名ヴォイス・フルート)に、そして左手をヴァイオリンに置き換えて、トリオ編成で演奏します。

●クープラン/「諸国の人々」より 第2組曲「スペイン人」

フランソワ・クープラン(1668-1733)は本日の音楽家たちの中で最も年長の世代で、フランスの音楽の中心地がヴェルサイユからパリに移る前、そのヴェルサイユ宮廷で活躍した宮廷音楽家です。日曜日のたびに催された太陽王ルイ14世のための御前演奏会で、クープランはチェンバロを弾き、ヴァイオリン、フルート、オーボエ、ヴィオラ・ダ・ガンバなどの名手たちと合奏しました。そしてこのコンサートで演奏された合奏曲の多くは後にいくつかの曲集として出版されました。穏やかな気品と豊かな詩情が漂うそれらの作品はフランス・バロック室内楽の最高峰といわれています。

「諸国の人々」には、「フランス人」「スペイン人」「神聖ローマ帝国人」「ピエモンテ人」(ピエモンテはフランスに近いイタリア北西部地方)の4曲が収められています。これらのタイトルの由来や意図は今日では不明です。それぞれの民族の特徴を音楽で表現しているようにも思えないので、それほど深い意味はなかったのかもしれません。ただ、当時フランスではイタリア音楽とフランス音楽の優劣論争が盛んでしたが、クープランは両者の「趣味の融合」こそが最上の音楽を生むと考えていて、多くの室内楽作品で自らそれを実践しています。「諸国の人々」でも4つの組曲はどれも、イタリア風のソナタの後にフランス風の舞曲がいくつか続く構成になっています。想像をたくましくすれば、もしかしたら作品全体で諸民族の融和といった理想を表現しようとしたのかもしれません。

クープランの室内楽作品はたいてい楽器指定がなく、トリオ編成の「諸国の人々」も同様ですが、本日は高音声部にリコーダー、フラウト・トラヴェルソ、2つのヴァイオリンを用い、さまざまに組み合せを変えて演奏します。