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■ 詩的ぶるぅす ■
2010年03月
〜末日 〜20日 〜10日




見えない彫刻 見えない鑿(のみ)を手に握り わたしはわたしを彫っている 彫らない日が続いたら 代わりにどこかが欠けてゆく この間は左足の 小指がぽっきり欠けたとさ わたしは彫り続けねばならない 見えない鑿で彫らねばならない 彫らねば自ずと欠けてゆく 彫らねば醜く欠けてゆく 打ちつける音は心臓の それと同じような音がする わたしはわたしである限り わたしはわたしを彫っている 2010.3.31
あなたにひとつ 小石をひとつ ぽとん 小石をもうひとつ ぽとん できた波紋 手に取って どうぞあなたに ひとつあげる 2010.3.30
ちゅうぶらん ちゅうぶらん ちゅうぶらん ちゅうぶらんぶらん ぼくのきもちは ちゅうぶらんぶらん こぐまはいいな こりすはいいな きもちは木の実に つめこんじゃって 仲間や恋人 らんらんらん それなのにぼくは ちゅうぶらん ちゅうぶらん ちゅうぶらんぶらん 2010.3.29
書斎にて回想録 芋畑をこしらえてさ 肥料をまいたりさ 雑草をとったりさ 芽が出たときなんてさ 生活は苦しいのにさ すっかり嬉しくなってさ 明日の朝が楽しみでさ リムジンが唸りながら 若い新郎新婦を乗せて ぐわりぐわりと過ぎ去った 芋畑に轍を深く残して おれはあの時ほどさ 怒り狂ったことはないけどさ どんなに豊かになってもさ あんな連中のようにはさ 決してなるめえと思ったのさ 2010.3.28
逍遥飛蝗(しょうようばった) がさがさと歩いている 跳べなくなったからね 足が良かった頃は 跳んでばかりいたものさ 小さな川くらいなら 軽くひとっ跳びだよ それが今じゃどうだ 川辺に下りるもひと苦労 高を括っていたんだな 足が悪くなるはずないと 闇雲に跳んでばかりで 何も考えていやしなかった 笑いたければ笑うがいい おめぇもせいぜい気をつけな 跳べなくなったバッタはな 生きていても喜び半分だ 2010.3.27
停電 電気仕掛けのトモダチが 動かなくなってしまった 普段はとてもおしゃべりで うるさいと思ってしまったり 藍は青で朱は赤と ずばずば決めてしまったり そんなトモダチではあるけれど 動かなくなってしまったら 静かな離島に来たみたいに なんだか淋しくなっちゃって こっちがべらべら話しかけ 反応のないトモダチを揺すり 煩わしいと思っていたのに 早く元に戻れと願っていた 2010.3.26
甲羅の小鳥 ことあるごとに亀のように 甲羅に身を隠していたら 全然前に進んでやしない 小鳥が上に乗っただけで びくりと手足を引っ込める 俺は甲羅の中で考える このままこうしていたって それはそれでいいじゃないか あとはこの中で朽ちるのさ そうかこの中で朽ちるのか 勇気ってやつはきっと 希望からは生まれない 勇気を振り絞るのは 絶望にいるときだけだ 背中の小鳥は飛び立った 2010.3.25
野良猫と僕 ある日突然に 近所の野良猫が 狂ったようになって 人を襲うということが どうして絶対にないと 言い切れるだろう ある日突然に ちょっとくしゃみした僕が 狂ったようになって 人を襲うということが どうして絶対にないと 言い切れるだろう 思いっ切りあくびしたら 虹がかかっていたよ 2010.3.24
谷地 ざぶざぶと湿地帯は続く 誰も足を取られ消耗する 表情には疲れの色ばかり 口をきく者もいなくなった 現代という谷地は薄暗く 霞の遥か向こうは見えない 後ろには悪鬼(あっき)が迫り来る 炎のように沸き立つ悪鬼だ 薄暗いのにぎらぎらしている 谷地を進むよりないのだ 霞の遥か向こうを目指して 冷たい水はもうずっと前から 脚の皮膚に貼りついている 2010.3.22
哀しい音色 オカリナを吹いても 哀しい音色しか出ません それはきっと哀しい 哀しい血が流れているから 吹く息も哀しい温度を 哀しい温度を含むのです だから傷みに耐えてでも 哀しい血を流し続け 新しい林檎を食べます それは美しい林檎です 楽しくなるような林檎です いつの日か哀しい血が 楽しい血に入れ替わった時 オカリナの音色もきっと 変わっていることでしょう 2010.3.21

手放し運転 手を放せば 楽になれるだろうか 今日は珍しく 白い鳩が飛んでいた 幸せの場所から 逃げてきた鳩だ 手から放たれて これからどこへゆくのか 白い羽根はいつか 色を失うことだろう わたしの白い腕は 幸いにも空を飛べない 2010.3.20
春風 人間の抜殻が あちらこちらに落ちている 風に吹きつけられては ころりころり転がっている それらを割って歩く者が 横の連れに囁く 抜殻だから気にするな 意思なんてないのだから その時抜殻は泣いた 意思のない抜殻が泣いた いつかぼくも抜殻となり 泣くことがあるのだろうか それならばせめて風に 風に負けない重さを持ちたい 2010.3.19
身の程 仁王様が左右におられる 上から見下ろしておられる わたしは仁王様か? 時期仁王様か? 元仁王様か? 身の程を知れ 天に召されてから 存分に見下ろせばよい 2010.3.18
くすぐったい くすぐったい くすぐったい くすぐったいって なんだかいいな 地雷原を抜けたり 森で銃声を聞いたり 原っぱで土煙を見たり 知り合いが冷たくなったり そんなときはだって くすぐったい神経は いいや全ての神経は 擦り切れていたもの くすぐったいって きっと怖ろしいことの 反対語なんだ きっとそうだ 2010.3.17
不用意 足を滑らせた 懸命に探した どこにもなかった 見つけられなかった 手は虚しく 斜面を啜(すす)り 転落というものは こんなにもたやすい しかしそれよりも 仲間が先にゆくのを 目にするのがつらい おぉ どうか 後に続く者よどうか 軽んずるなかれ 軽んずるなかれ 2010.3.16
朝の静寂 わたしはきっと静かに 静かに死んでゆくだろう 誰にも見守られず 誰を呼び止めもせず 苦しむ素振りもせず 泣き叫ぶこともせず どうか許して 許しておくれ わたしはこうするより 仕様のない人間なのだ せめて静かに逝くことで わたしを全うさせておくれ 雀が啼き出す空は 音もなく白んでいる 2010.3.15
見えない空 目を失った少女は どうして野原の中を 駆け巡っては息を切らし 微笑んでいられるのだろう 光を感じるからか 風を感じるからか 草の匂いを感じるからか 土の温度を感じるからか 白い蝶と黒い蝶が 同じ花で蜜を吸っている 見えない空が続く限り ぼくたちは壊れない 2010.3.14
バックスピン バックスピンをかけすぎて 戻りすぎてしまったよ 人は時々かっこよく 過去を振り返りたがる あんまりキレが良いもので 戻りすぎてしまったよ ここぞという時かっこよく 過去を振り返りたいのだよ バックスピンをかけすぎて 少し癖になっているのだよ 2010.3.13
潰してなんぼ 潰して潰して 潰してなんぼの これまでよ 暇を潰して 時間を潰して お菓子の家や 積木のタワーは あっけなく 夢を潰して 未来を潰して イチゴは潰して ジャムにしよう 潰してなんぼの これからよ 2010.3.12
最後尾 なあらんだ なあらんだ なあらんだあら なあらんだ どうおして どうおして なあらんだあら どうおして しいらない しいらない しいらないけど なあらんだ ゆうるして ゆうるして どうにもできない ゆうるして 2010.3.11

寿司詰め 立派な箱があって もちろん蓋も綺麗で その上一流の店ときたら 入ってしまいたくなるさ たとえ潰れそうなくらい ぎゅうと混み合っていても おっとごめんなさいね しゃりを踏んでおりました それでもみんな大人しく しゃんとネタを光らせる 哀しいなんて言わないで 寿司詰めは哀しくも 誇り高いほどに美しく 2010.3.10
明けきらぬ刻(とき) 真っ暗な夢を見た 何もかも宇宙であった 何もかも 夢から醒めても 醒めたのかわからない わからない あの人はどうしているだろう 助け起こしてあげれたら 良かったけれど 今日になって強い風が 止んだことはわかる それだけはわかる 2010.3.9
水鳥 おまえはどうして いつも冷たい水の上で 平気でいられるのだ その上どうして 笑うようにふるえると 幾つも輪ができるのだ おまえをつかまえてみようと 水の中へざぶり入っても 足の水かきがすぐに 遠くへ連れ去ってしまう 挙句の果てに 大空へと舞い上がる 腰まで水に浸かりながら 両手をばたばたしても おまえのようにはいかない 2010.3.8
嚥下(えんか) あぁ 何かひとつ わかったかもしれない 諦めないことだ 2010.3.7
ミクロン この雨はどこへ行くのだろう この小さな一粒一粒はどこへ 重さをもったその時から 遥かなる旅は始まった 風にもまれたときには ほかの粒とぶつかりながら 風も光もないときには 孤独の時間を過ごして ついに長い旅路の果て 重力の終焉を迎えた それでもなお小さな粒は どこかへ行こうとしている 小石の隙間へ入り込み まだ重力を探そうというのか 2010.3.6
ひよどりの春 色づく枝に ひよどりが啼く 冷たい雨は 枝から落ちる 寒桜の暁光 木蓮の目覚め 沈丁花の吐息 雪柳の滴(しずく) 幼い傘は まだ春を数えず ただ嬉しや 水たまりを踏む 2010.3.5
スカイダイビング 飛行機を操縦する者 燃料を調達する者 無線で指示する者 双眼鏡を覗く者 なぜ彼らはそこに そこにいるのだろう いま空から落ちる者 まったく彼と同じように 生れ落ちるに従って 行き着くところへ来た 理由なんてないのだ ただ落ちるに従ったのだ 私はどうやら詩の中へ ダイビングしているらしい 2010.3.4
他人の褌 誰かの褌(ふんどし)が ぶらさがっている なんの苦労もなく これで相撲が取れる なんの苦労もなく 褌を着けると 見知らぬ海に入ったように 冷たくかたい感触が 体との記憶を遮った 自分自身からの孤立 自分で自分を助けるさえできない そういった孤立 まだ体温があるうちに 他人の褌に奪われないうちに 元のところにぶら下げた 2010.3.3
スケートリンク 玄関の扉を開ける そこはスケートリンクの上 そろりそろり歩き出す すってんころりでん 青空に星を見る うふふそれはそうだ 滑らなければならない きたきたきた おそるおそる回ってみる くるくるくる きたきたきた 握りこぶしをつくる 観衆はいない うふふそれはそうだ ぼくのスケートリンクだもの 2010.3.2
おてつき おてつきは 一回休みよ しょげなさるな 死ぬわけじゃない だけどおてつき 一回休みよ 2010.3.1

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