Dig the Roots of C'est La Vie !
・ごあいさつ・ こんにちは。 このコーナーではT.MiuraがC'est La Vie的なサウンドをつくる上で 直接影響を受けて来た作品を紹介したいと思います。 BITTER END本編にも「My Favorite Things」(*1)があるのではないか?と。 いえいえ、そちらはあくまで忘れられゆく(あるいは知られてない) 個人的名曲名盤の救済が目的ですから…。 ここでは、比較的今現在でも評価の高いものが出てくるかと思います。 全6回ぐらいで完結かな、とりあえず。 当然、アコースティックでおだやかなものが多いので 休日、部屋の掃除のBGMなどにはオススメ。 では、最後までお付き合いください!
*1 “My Favorite Things”ってことは、 音楽以外にも青い車だとか黄色いギターだとか紹介するの? というご質問をいただきましたが、そういう意味ではありません。 コルトレーンの十八番のタイトルから来てます。 JR東海の京都のCMで流れてた曲が多分そうだと思うんですが 結構イメージ違うのでウソかも…。
Roots No.1
『Sleeping Gypsy』/Michael Franks
“シティ・ミュージック”だとか“アーバン&メロウ”なんて言葉に反応するものの間では 超名盤でしょう。甘く、それでいてクールな歌声にクルセイダーズ(ドラムだけLAエクスプレスの ジョン・ゲーリン、ナイスな人選!)+サンボーン、マイケル・ブレッカーらによる洒落たバッキング。 マイケル・フランクスのブラジル志向がもっとも出ている作品です。 ちなみに収録の「アントニオの歌」のアントニオとはアントニオ・カルロス・ジョビンのことですね、多分。 余談ですがUAもカヴァーしてたような。 C’est La Vieとしては、やはり二次的なブラジル音楽に惹かれるんですね、そのものよりも。 また、当時はこの歌唱が「ヘタ」だとか「気が抜けてる」とか云われたそうですが、そのあたりも シンパを感じてしまう。発表から四半世紀後の今でも新たなリスナーを獲得し続けてるわけですから、とやかく云ってた連中は 全然わかってなかったということでしょう。どう考えても、このトータルな都会的雰囲気を出したくてこの歌い方なのですよ。 なにも歌い上げればうまいかって、そんな話ないですよね。そもそもボサ・ノヴァがきわめて抑制された空気感を大事にする音楽だし。 おそらく、この音楽、サウンドが嫌だって人はいないんじゃないかなぁ、もの足りないって人はいても。それぐらい普遍的。当然CDも 出てますので、おすすめです。1977年作品。一応、トミー・リピューマ制作、アル・シュミット録音。この種の音が好きな人にはとても神々しい名前。 (2002.11.18)
Roots No.2
『Rhymes & Reasons』/Carole King
世の中でキャロル・キングと云えば、まあダントツで『つづれおり』なんでしょうけど、
コンポーザーとしてではなくシンガーソングライターとして見るなら、最も充実してるのが
この作品ではないでしょうか。洒脱で、肩の力がいい具合に抜けててしかもすごくプライベート。 これ大事。C’est La Vieとしてもよりプライベートな空気を出したいですね。 K「Been To Canaan」はちょっと他には見当たらないタイプの佳曲です。こんなにひろがりのある 澄んだ曲は知らないなぁ。それ以外の曲にも共通なのですがどこか懐かしい。ちょっとしたデ・ジャヴかな。 @「Come Down Easy」のイントロのコンガが聴こえた瞬間、「あ、これ買ってよかった」と悟る。 なぜだかわかりませんが、そういうことってありますよね? まさに、そういうアルバムです。そのコンガはボビー・ホールという黒人の女性パーカッショニスト。ひととなりは知りませんがカッコいい女性です。 ほか、チャールズ・ラーキー(B)、ダニー・クーチ(G)の定番リズムにハーヴィー・メイスン(D)、レーベル・メイトでもあるデヴィッド・T(G)が ちょこっと参加、などなど。 で、個人的にデヴィッド・キャンベルの弦のアレンジがとてもすばらしい! 本来クラシックの人なんでしょうけど、すごく歌心あるアレンジをするんですね。邪魔にならず過度にお上品でもない。 こういう、いい意味でクラシカルなものが心地よいですね。そのうち紹介すると思いますがニック・デカロとか同じく好きだなぁ。 あと、もうひとつ紹介。録音エンジニアのハンク・シカロ、この人もすばらしい!キャロル・キングほかオード・レーベル作品に名前を見ますが ほんといい音だなぁ。そのままスピーカーの中で歌ってるような素の音。ドラムも残響がなくあたたかみがある、やっぱり素の音。でタム類が印象的。 好きな要素です。ドラマーもタムの使い方にセンスを感じることが多いです、私。昨今はスネア偏重の傾向がある気もしますし。 ええと、最後に8月1日生まれの方、D「The First Day In August」という曲があるので人生のテーマにしてください。せつない曲ですが…。 1972年作品。邦題『喜びは悲しみの後に』、だったかな。ソロ4作目。(2002.11.20)
Roots No.3
『Homecoming』,『Hat Trick』/AMERICA
なぜか2枚ありますが、ルーツということではどちらかを選ぶのは不可能。 だから、「AMERICA」がルーツということで。 アコースティックで爽やかなハーモニー。でも決してよい子ちゃんな音ではないのです。 この頃、おそらく20〜22歳位の青年たちですが、独特の湿り気、陰鬱さが。 カリフォルニアで湿ってたのはアメリカぐらいでしょう。 多分、出身がイギリスというところにヒントがあるのかな。 まず『ホームカミング』ですが1曲目の「ヴェンチュラ・ハイウェイ」。 C’est La Vie「湾岸道路」の初期衝動と云ってしまいましょう。聴いてください。
そして3rd『ハット・トリック』。選べないながらも結局、これを選ぶんだろうな、という作品。 1曲目「マスクラット・ラブ」から「ブラームス」のやさしさ、あたたかさを感じてもらえれば。 まあ直接の元ネタというわけじゃないですけど。 なにせ、「ブラームス」につながる曲は結構あるので。 で、なにを置いても「レインボウ・ソング」!多分、心のベスト10入りますね。 熱心にアメリカを聴いてたのは10代の終わりだったと思いますが 今でも比類する曲は見当たらないなぁ。 これには憧れました。やりたいのはこの雰囲気だな、と強く思ったものです。 ちなみにこの2作、ハル・ブレインという元祖スタジオ・ドラマーが参加してることでも知られてます。 たたみかけるようなタムのフレーズが特徴。名ドラマー。 それぞれ、1972年&1973年作品。この次からビートルズで知られたジョージ・マーティンのプロデュース。 流麗なサウンドを獲得、1975『Hearts』では久々のNo.1ヒットも生まれます。しかし同時に何かを失ったのも確か。 「選べない、といいつつこれを選ぶ」のは結局、この時期の屈託ない清廉な空気に自分の過渡期を重ね合わせているから、かな? オトナになる前に聴いておきたいグループです。 (2002.11.30)
Roots No.4
『The Fifth Avenue Band』/The Fifth Avenue Band
どちらかというと西海岸サウンドの影響が強い私ですが
このフィフス・アヴェニュー・バンドは名前の通りニューヨーク。
このグループに出会ったのは95年のこと。作品自体は69年のもので、長らく幻の名盤的扱いだったのが
当時の渋谷系ムーブメントが恐らくきっかけなんでしょうが、ようやくという感じでCD化されたんですね。
その頃、アパートのロフトで低い天井に挟まれながら、ずっと聴いてたなぁ、このアルバム。
まだ自分の中でも好きな音楽、演奏したい音楽、つくりたい音楽などなど大変混沌としてた時期で
エドガー・ウィンター、サンタナ、ティン・パン系、風、Les5‐4‐3‐2‐1など挙げるとキリないけど かなりメチャクチャな取り合わせだったり。そんな中でこのフィフス・アヴェニューを聴いて、「なんて新鮮な音なんだろう!」と強く感じたものです。 自分でも薄々“洗練”を求めてると気づき始めてたのが、これで決定付けられた気もします。 AOne Way Or The Other、CEden Rockの2曲は今のC’est La Vieのサウンド(むしろ、それをつくるスピリットに)強く影響を与えてます。 ピーター・ゴールウェイ他メンバーのその後の活動(※1)が何かと目にとまるのも何かの縁でしょう。 個人的思いですが、このジャケットの雰囲気と4月の四ッ谷の土手の空気が妙にダブりますね。他にもそういうディスク・曲、結構あるけど…。 私の創作マインドを刺激するのは、あるいはその表現の行き着く先は結局「ノスタルジア」なのだと思います。 (2002.12.13) ※1 G,VoのP・ゴールウェイ、KeyのM・ウェインストックは80年代にブレバタの録音にそれぞれ制作・編曲で参加。 G,Bのケニー・アルトマンは達郎ファースト・LAサイドのプロデューサーだったと思う、確か。 Voのジョン・リンドはその後ヴァレリー・カーターらとHowdy Moonで活動。結構いい。さらにその後突如作曲家として ヒット連発。EW&F「ブギ・ワンダーランド」など。
Roots No.5
『Italian Graffiti』/Nick DeCaro
この何年か、常に思っていること。“カッコよさ”が音楽をはかる上でほんのひとつの尺度でしかない、
ということ。“カッコよく”なくても、“いい音楽”はたくさんあるのだ!当たり前だけどね。
どちらかといえば地味で職人肌のミュージシャン、ニック・デカロが残したこの一枚、
「AORのはじまり」とか「シティ・ミュージックの記念碑」とか様々な賞賛を集めてますが
なにより、冒頭で書いたこと、そのごく当たり前のことを、ごく当たり前に気づかせてくれます。
@「ジャマイカの月の下で」のデヴィッド・Tは知る限り彼自身の中でも1,2をあらそう名演でしょう。
実際、これすごく“カッコいい”。むしろ“しびれる”と云いたいぐらい。
C'est La Vieでは「Havana Moon」(※1)というなんだか似たようなタイトルの曲がありますが
このサウンドを手本にしたのはまぎれもない事実。しかしながらB「二人でお茶を」、ティン・パン・アレイ(※2)の香りただようこのスタンダード曲や、
Cジョニ・ミッチェルの「オール・アイ・ウォント」、E「アンジー・ガール」など、その他全編に渡って、「カッコいいかどうかなんて別にどっちでもいいな」 (※3)、と思わせるようなきわめて純粋な音楽の喜びに満ちたサウンドを提示しています。
繊細で流麗で泣きたくなるような管弦、コーラスのアレンジとか、参加プレーヤーの好演だとかこのアルバムに思ういろんな要素がありますが
結局、ひとことで云うなれば「純粋に音楽から得られる音楽的な感動」ということ。 これは確かな技術と知識(ここが大事!)、そしてそれを生かすだけの経験とセンスのもとにはじめてうまれるものじゃないかな。
そもそもがアレンジャー、プロデューサーでありピアノからアコーディオンまでこなす鍵盤奏者、つまり裏方。 逆に云えば音楽においてプロ中のプロであったニック・デカロならではの音。 奇をてらうことなく、色目を使うこともなくひたすら音楽と向き合ってこその大名盤。ただただお手本です。 1974年作品。これもトミー・リピューマ制作&アル・シュミット録音ですね。(2003.2.11)
※1 曲自体はカルロス・サンタナのソロ作品、同名アルバム・ジャケットからのインスパイア。
※2 日本のプロデューサー集団のことではなく、いわゆる“銀幕”的な意味。
※3 やたらとその辺にこだわってるのは、このデカロおじさん、まあ見かけ、単なる“オッサン”ですよね。 しかも私にとって旧知のド田舎者、知る人ぞ知る“会津が生んだエルビス”こと某G君を連想させるから…かな?!