「ろびのスパイス」 by ろび

第6回「アザーズ」(2002.5.22)

はっきり言って怖い。心の底から怖いと思ったのは、「リング」以来だ。
1人で、しかもレイトショー。場内に1人取り残されるのがこの上なくイヤだったので、
映画が終わるや否や、私は席を立ち、衣山シネマサンシャインの5番館を出ようとした。
ところが、出口が真っ暗で、手探りで探り当てた扉はいくら押しても開かない。
しばらくして、そこは出口じゃないことが分かった。…ただの壁を一生懸命押す私。
いつもなら「ハハハ、わたしったらおマヌケさんっ」とやや自虐的な一言を軽く自分に浴びせて終わるのだが、
この時の私は、「おお、神よ、仏よ、扉様よ」とでも言わんばかりに扉に感謝し、
心の中で「ヒイッ」と蚊の泣くような悲鳴をあげながら出口を飛び出したのだった。
そして、このことで私の恐怖は助長され、家に辿り着いた時は、もう息も絶え絶えだった。

ここまで書くと、「そんなに怖いのか」と随分期待させた挙句、
「なんだ、それほどでもなかったぞ」ということにもなりかねないが、私が何故、そんなに怖いと思ったか。
「アザ―ズ」はホラー映画にありがちな、血みどろの惨劇や四谷怪談みたいな化け物は全く登場しない。
なんと言うか、上品で美しく、それでいて、人間の心の底にある恐怖心をまるで、低温火傷のようにじわじわ攻めてくる感じなのだ。

怖いだけじゃない。普段は「そんなの、ないない」とある種の冷静さを保ちながら見てしまうが、
物語の展開が意外で面白い。そして、物語の重要なファクターとなる「子供」の演技もこれが映画デビューとは思えないほどだ。

舞台は1945年第二次世界大戦末期のイギリスのとある島。
この島の大きく不気味な屋敷に住むのは、戦争へ行ったまま戻らぬ夫の留守を守る一人の女(ニコール・キッドマン)と
光アレルギーのため暗闇の中で生活を送る2人の子供達。そして、この3人の前に現れた3人の召使。ここからは内緒。

アメリカ、スペイン、イギリス、イタリアなど、世界各地でロングランヒットとなっているらしい。
監督は、サイコスリラー「オープン・ユア・アイズ」で注目を浴びたスペイン映画界の風雲児、アレハンドロ・アメナーバル。
アメナーバルと手を組んだ製作総指揮が、主演のニコール・キッドマンとは以前私生活のパートナーでもあったトム・クルーズ。
2人はクランクアップと同時に別居、プレミア上映の翌日に離婚してしまった。

暑〜い夜に背筋がぞくっとするような体験をしたいあなたにおすすめ。
熱〜い夜を過ごしたければカップルでどうぞ。
でも手を握り締め合いながら観るとそんなに怖くなくなりそうだし、
その隣に座った人の気持ちになると、わりと腹が立つのでおすすめできない。