「きいの音楽室」 by きい

第1回〜ピュアトーンとガラガラ声〜(2001.6.19)

私はよく、「◯山□春さんの声に似てますよね。」と言われます。
(ついでに、頭も似ていると言われる)
誉め言葉らしいのですが、実はあまりうれしくありません。
(もちろん松◯千□さんほど上手いわけでもない)
「きれいな声ですね」という表現にも、ガッカリしてしまいます。
(何様なんだろうねえ俺は)
どうやら、クラッシック音楽を勉強してきた私には、
きれいな声を出そうとする習慣が身に付いているようなのです。
でも、本当はハスキーなシブーい声にあこがれているのだ。

2年ほど前にフラメンコギターを習い始めたこともあり、
フラメンコなどのいわゆるロマ(=ジプシー)の音楽を聴くようになりました。
そして、ある興味深いことに気がつきました。
それは、「彼ら(ロマ)の歌声は、心地よい雑音を含んでいる。」という事実です。
キリン淡冷生のCMを見たことがありますか?
あの(初期の)CMのBGM「ヴォラーレ」を歌っている「ジプシー・キングス」も、ロマの子孫です。
実に「心地の良い」ガラガラ声だと思いません?

クラッシック音楽においては、歌でもどんな楽器でも、
一般的に、雑音を余計な物として排除し、「ピュアトーン」を目指す傾向にあると思います。
それって、元々、王様や貴族、お金持ちのための音楽だったからなのかな?
いずれにしても、彼らが欲するのは、洗練された美しさ、シルクのようなきめ細やかな音。
一方、フラメンコのような庶民の音楽は、そんなヤワな物ではありません。
それは生活の中からにじみ出るダイナミズム。
その歌声は、苦労や悲しみを振り切るために絞り出す叫び、喜びをストレートに表現するおおらかな響き。

こういう例え方をすると理解していただけるでしょうか。
クラッシク音楽の美声はソフトなマッサージをしてくれる指先。
フラメンコ音楽のガラガラ声はかゆいところをかきむしってくれる爪先。(なんだか怪しくなってきたな)

ガラガラ声=雑音が心地よく感じられるのには、こういう理由があるような気がするのです。
毎日虫に刺されてばかりの(ストレスの多い)我々庶民の日常には、
柔らかいマッサージよりも爪でぼりぼり引っかかれるような音楽の方が気持良く感じられることが多いのでは・・・。
(もちろん、クラッシク音楽の効能を否定するわけではありませんよ)

というわけで、性懲りもなく、私もガラガラ声を目指しているのであります。

※ジプシーとして知られている人達のことを言うとき、本当はロマと呼ぶのが好ましい。ジプシーは蔑称に当たるのです。