ALIVEの歴史は古くもないが新しくもない - 第三話

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その日の前の晩はなかなか寝付けなかった。深夜、冬季オリンピックの種目を見ながら、幾らか眠くなるかと思い父のウィスキーを舐めてみたが、駄目だった。極度の緊張と焦り。初ライブの前の晩。バンドを始めて数ヶ月が過ぎ、何曲かオリジナルの楽曲もできてきたので、自分たちの企画をやろうと思った。
 対バンはスタジオM3rdの大谷氏とMスタッフによるコピーバンド「ガッツ具志堅(確か)」とMのお客さんバンドを何バンドか誘って出演していただくことにした。ヌンチャクプレゼンツ「エスパシオ vol.1」(後に窒息ナイト)。格好良い。場所は柏でバンドをやってる人なら誰でも知ってる「ALIVE」でやる事にした。近いし。
 企画の準備は本当に楽しかった。バンドのロゴを作ってみたり、間違えた横尾忠則風の「コラージュ」したフライヤーを作ってみたり、それを持って学校で宣伝してみたり、練習に気持ち入っちゃったり。でも前の晩は吐き気を催していた。
 当日、ライブハウス独特のカビやらヤニやら糞尿の混じった臭いに包まれながら、リハがスタート。トリの私たちは逆リハで一番目。気分も最悪。もうこうなったら覚悟を決めるしかないと思い、何故か全力を尽くす。リハなのに。しかしそれが幸いしたのか、リハが終わると一気に緊張から解き放たれていた。先にやったもん勝ちなんだな、こういうのって。
 もうどうしようもないくらいの脱力感の中、ウスボンヤリと他のバンドのリハを見ていると、「この人達は俺達の企画に出てくれているんだよなー、何か申し訳ないなー、良いライブやらないとなー」といった気持ちになってくる。またジワリジワリと沸いてくる焦燥感。ふと辺りを見回すと、当時ALIVEの壁に掛けてあった大きな腕時計が、本番まで後何時間、何分、何秒と、私に聞かせるように秒針を動かしていた。

つづく


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