吹奏楽のページ

 ここでは僕が過去取り上げた作品を中心に吹奏楽曲を紹介していくページです。不定期更新、内容も僕の感じたままに書いていこうと思います。


◎第2回(2004.2.4)

☆交響詩「モンタニャールの詩」(ヤン・ヴァン=デル=ロースト)

 教育的作品が多いローストにおいて、これだけ芸術的で幻想的な作品は無いだろう。彼は1956年にベルギーで生まれたフラマン人(オランダ系ベルギー人)である。1979年、レマンス音楽院でトロンボーン・音楽理論・音楽教育のディプロマを取得、のち王立音楽院・王立フレミッシュ音楽院にも学んだ。現在は母校であるレマンス音楽院で教授職を務める傍ら、吹奏楽・金管バンド・管弦楽・合唱・宗教音楽など、幅広いジャンルの作品を手がけている。大変多作であり、その作品は特に日本で人気が高い。代表作として、「プスタ」、交響詩「スパルタクス」、「カンタベリーコラール」などがあり、それらは各地で毎日の様に演奏されている。また、ベルギー初のブラスバンド「ブラスバンド・ミデン・ブラバンド」の創立者でもあり、ブラスバンドの作品も数多い。
 作品はイタリア北部、ヴァル・ダオスト州都アオスタの市民バンド「ヴァル・ダオスト吹奏楽団」によって委嘱され1996年に完成、翌年1月26日に同楽団によって初演された。

 モチーフはかつてこの地方を統治した女性の名がつけられている一枚の歴史的絵画「カトリーン・ドゥ・シャラン」気高き雰囲気から得られた印象、この地方の歴史や風土、アルプスに雄雄しく聳え立つモンブランの輝きである。幻想的な特殊効果を意識した打楽器によって曲の幕が上がる。曲は静かに山脈の静かな夜明けを描写するが、このあたりはR.シュトラウスの「アルプス交響曲」を意識したものだろう。途中美しくも芯の強さを備えた「カトリーン・ドゥ・シャラン」のテーマが暗闇の中提示される。その後「サングラスが必要なくらいに雪が輝いている」という様にだんだんと楽器が重なりその頂点でアルプスが夜明けを迎える。途中激しい争いの歴史が垣間見られるフレーズがあるが、それが収まると回顧するかのようにバロック調のルネッサンス・ダンスが現れる。これらはリコーダーやダブル・リード、サキソフォン・ブラスなどによって順に奏され、それが更にバロックの雰囲気を掻き立てる。後半にはユーフォニアム・ホルンにより「カトリーン・ドゥ・シャラン」の生涯において大きな役割を果たしたであろう愛がおおらかに歌われる。最後はモンブランの輝き、ルネッサンス・ダンス、カトリーン・ドゥ・シャランなどの全ての要素が見事にミックスされ、見事な輝きを見せる。そして曲は力強く幕を閉じる。


 あまり最初はピンと来ない曲らしいが、噛み締めれば噛み締めるほど味が出る大変大人の色が濃い作品であるまた、モチーフがイメージしやすく、雰囲気作りは割としやすい。その上普通にハーモニー・メロディー共に美しいので演奏会の中心として大変お薦めな逸品である。演奏時間約18分。


◎第1回(2004.1.31)

☆交響曲第1番「大地、水、太陽、風」(フィリップ・スパーク)

 この曲はノーザン・アリゾナ大学スクール・オブ・パフォーミング・アーツ(The Northan Arizona University School of Performing of Arts)の委嘱により同学の創立100周年を記念して作曲され、依頼者により1999年10月に初演された。日本では2000年11月9日に大阪のフェスティバルホールにおいて指揮:渡邊一正、大阪市音楽団によって初演された。またこの日本初演はシンセサイザーのトラブルが起こり無音状態になるといういわくつきのものである。

 曲は4曲構成の交響曲で、それぞれ自然をテーマにした表題が付されている。
 T楽章「大地(Earth)」、Allegro Vivo。快活なメロディーで始まる。この曲で最も明るい曲であり、躍動感がある。途中中低音の刻みと高音木管の旋律が絡む個所は、近年のスパークに見る「よく思いつくな」と思ってしまう興味深いものである。大変わかりやすいソナタ形式である。 
 U楽章「水(Water)」、Vivo e Scherzando。ピアノの高音とフルートを絡めて透明感を出す手法が水面の輝きを表す。途中水が湧き出るような表現や深層の重い水流のような表現が出てくるが、常にそれらは透明感に満ち溢れている。最後の盛り上がりは水を享受するあらゆる生命体が歓びを感じる。しかしその水はだんだん量を減らし、最後にはハープがそのしずくを映す。
 V楽章「太陽(Sun)」。全体としてもそうだが、この曲は一層無拍子の感が否めない。シンセサイザーとサスペンデッド・シンバルがアリゾナの砂漠を照りつける太陽を表し、バスーンがインディアンの祈りを表す。途中その存在を強調する不協和音はアリゾナの厳しい自然と太陽の強さを象徴している。
 W楽章「風(Wind)」、Vivo。常に風を表す動きがあるが、途中風の止む個所が2つある。その間は大変厳粛で緊張感のあるものだ。風というだけあり中音域のやわらかい音が旋律の中心を成している。最後は今までの恵みに対してのオマージュの如く激しく、その中にも優しさを秘めた強い音楽になる。最後はB.D.によるきっかけでホルンの咆哮と共に終わる。


 全体としてわかりやすい構成ではあるが、そのアンサンブルは大変緻密であり、これを完全に表現するのは大変難儀である。演奏時間約30分。


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