管弦楽のページ

 このページは管弦楽の作品についてウダウダ述べてみるページです。主観がかなり影響しているので、曲の解説が実際と違うと思われる事もあるかと思いますが、感想を率直に書いているということでこの注意書きに免じてご容赦下さい。


◎第1回(2004.2.17)

☆幻想交響曲 作品14 ある芸術家の生涯の挿話(エクトル・ベルリオーズ)

 ベルリオーズはフランスの作曲家であり、代表作は他に「ファウストの劫罰」や「イタリアのハロルド」、「レリオ」などがある。この作品は1830年に作曲された。副題にある「ある芸術家」というのは紛れも無くこのベルリオーズである。大きな流れとしては劇団の女優に恋をした一人のある芸術家が叶う筈も無い恋に落ち、その苦しみの果てに阿片中毒に陥る5楽章に亘る悪夢の恋愛ストーリーである。

T. 夢・情熱
  ソリスティックな幕開けである。タイトルにある様に夢見心地なやわらかい感じで曲は進むが、彼女に対する恋慕の情が抑えきれずに情熱的なフレー ズに移行する。大変華やかに見えるが、その中に低音の進入などによりかすかな苦悩が見える。主人公は阿片に毒されているのだ。現実かどうかわ  からないが曲全体の前半の主題は伸びやかに歌われあまり苦悩は見えず、これから立ち向かう恋への強い気持ちを表している。最後は各楽器ソロ   による主題の掛け合いを挟みながら盛大に進行し、主題によって静かに終わる。場面と言うより主人公の心情を描写した大変複雑な内容の曲である  。
U. 舞踏会
  大概美しいと評判が高いが、曲の背景を考えると大変悲しい曲である。恋慕する女性を舞踏会で垣間見る訳だが、主人公は明らかに女性との舞踏を 妄想している。非常にやわらかく高貴で美しいメロディーは主人公の女性に対するイメージとも言えよう。全体を通して主題を主旋律としたワルツである 。最後に主題の問いかけがあるが、ここではまだ応えるメロディーが存在する。
V. 田園の場景
  コール・アングレとオフステージ・オーボエの掛け合いに始まる。ベルリオーズが台詞や詩以外で劇場のような音楽を追求した結果の舞台効果である 。主人公が田園にて安息を得ているのであるが、結局のところ苦悩にさい悩む事となる。ついに主題に対する応えは無くなり、遠雷がとどろく。主人公  は乱心に陥る。
W. 断頭台への行進
  主人公はついにその女性を殺してしまう。その為急にここから曲はグロテスクさを帯びてくる。彼はその罪により市中を引き回され断頭台にてギロチン の刑に処される事となる。その場景を表した曲である。前半は金管による割と明るめな市中を描写した表現であるが、後半になるに従い時局急を告げ、 荒々しい描写が続く。そして主題の問いかけに対してついにギロチンが落とされ、主人公は地獄へと落ちる。最後のファンファーレは主人公、すなわち  自分へのせめてものはなむけなのか。
X. ワルプルギスの夜の夢
  地獄へ落ちた主人公は魔女や怪物たちの嘲笑の的となる。自分の殺した女性も登場するがその姿は面影無く、娼婦に成り果てていた。そのうち遠く から弔鐘の音が聞こえ、彼の葬儀が始まる。低音によって怒りの日のテーマが奏される。大変重苦しい空気の中テーマが重なり地獄のロンドとしてフィ ナーレを迎える。

 曲そのものを好きという人も居るが、この筋書きを知ってしまうと大変この曲を深く掘り下げて聴くようになってしまう。それはなぜか、それは恋愛が人間の永遠のテーマであり、それに対する苦悩は誰もが避けて通れないからである。恐らく相当の人々がこれに共感する事ができるであろう。その瞬間、ベルリオーズの考えた交響曲による舞台表現が完成し、見えない役者が脳裏をよぎるのではなかろうか。自身もこの曲に大変共感した点があり、深い感情移入をした事がある。正に音楽による魔術である。人間と音楽はやはり切っても切れない縁があるのだろう。


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