◆BIOGRAPHY◆

ファーストステージ【上等じゃねーか】

あれは俺が二十歳だった頃、札付きのワルというレッテルを貼られ、街を歩けばみなが避けて通り、「尖ったナイフ」なんて呼ばれてた頃の話さ。その頃の俺が街に出る理由はたったひとつ。そう、喧嘩さ。女、子供をみつけては片っ端から殴っていき、ちょっとでも怖そうなやつがいれば、すかさず路地裏に隠れる。
そんな極道みたいな日々を送っていたある日、そうだなぁ、ありゃ冬だったかな。。。
いつものように俺は街に繰り出し、生意気そうな小学生からありったけの小遣いを巻き上げ、コンビニの前でファンタをたしなんでいた。すると目の前を、生意気そうに牛乳ビンの底みたいなメガネをかけ、日能研のバックを背中に背負いながら、参考書を読んでるカモを見つけたのさ。
おれは当然「オイ!ボーズ!有り金全部置いていくのと、今この場で血祭りにあげられんのと、お前に選ばせてやるよ。」と、いつもの決りゼリフをぶつけてやったのさ。するとそのガキンチョは顔色一つ変えずにこう言ったのさ。
「あなたに渡すお金など、一銭たりとも持っていません。また、血祭りの意味がわかりません。」フフ。今思い出しても生意気なガキだぜ。「アハハハハ!こりゃ大したタマだ!オイ!ボーズ!いい度胸しているところはかってやるよ。
でもこれ以上俺を怒らせると命の保証はできないぜ!?」「僕は宿題があるので失礼します」その頃の俺には仏の顔は1度きりさ。

「野郎上等じゃねーか!ぶっ殺してやろうかっ!!!」

俺は今まで何人もの小学生を血祭りに上げてきたその豪腕を振りかざし、生意気な小学生に向けて自慢のフラッシュピストンマッハパンチをお見舞いしようとした瞬間、後ろから俺の腕をわしづかみにして離さない奴がいた。
俺は力いっぱい振り払おうとしたが、そいつの握力はハンパなものじゃなかった。そしてそいつは自らの肩に手乗り文鳥を乗せたまま俺に一言こう言った。
「やめておけ。。。」と。。。

  俺は悟った。今までしてきた自分の悪事。喧嘩に明け暮れ、仲間達と自転車で暴走、スカートめくりに、お医者さんごっこと、ワルというワルは全てしてきて俺が、なぜだか涙が止まらなかった。
止めて欲しかったんだと思う。仲間のワルからも一目置かれ、本当に自分を理解してくれる人間なんていないもんだと思ってた。
誰も止めてくれなかったし、誰にも相談できなかった。
それが俺の生き様だと自分に言い聞かせ、何度もムチャを繰り返してきた。
やっと、俺を、やっとこの俺を止めてくれる奴が出てきてくれた。それだけがただただ嬉しかった。
振り返りざまに俺はそいつを一発殴り、そいつは俺を一発殴った。そしてそいつはささやくように俺にこうつぶやいた。

「なぁ、、、バンド、やんねーか?」

「バ、、、バンド?」

「あぁ、バンドさ」

「バンド、、、かぁ。。。」

俺は涙をぬぐい、顔を上げ、そして、「なぁっ!バンドって一体・・・、ん?あれ?どこいっちまったんだ?ま、いっか。ん〜、バンドかぁ。。。あ、あいつ名前も告げずにどこいったんだ?ってか何者なんだろ?」

  俺は顔を上げた。雨が降ってきた。店の軒先で雨宿りをしていると、雨は一瞬で上がり、また青空が顔を出した。そこには飛行機雲で、青空のキャンパスいっぱいに「トミー」と書いてあった。

その後、俺達はバンドを組んだ。


ドラムはその時トミーの肩に乗っていた手乗り文鳥「ヨッタン」にツツイテもらう、いや、叩いてもらうことにした。
ただこのとき、俺達は何年か先に待っている不幸な出来事など知る由もなかった。。。




セカンドステージ【クソッタレ】

俺達は走った。走りつづけた。
今まで喧嘩や万引き、スカートめくりに食い逃げ、ブラジャーのホックはずしなどなど、悪事という悪事に手を染めてきた俺が心の中でこう叫ぶ。

「これだよ!この汗だよ!」

本気でそう思った。。。
俺達はこのまま死ぬまで走りつづける。
そう感じていた。
あの日までは。。。


そうあれは蒸し暑い夏の日。
なんだかいつもと違って弱って見えた文鳥「ヨッタン」を俺とトミーは名医がいるという病院へ連れて行った。
「おい、心配すんなよトミー。ただの夏バテさ。」
「あぁ、だといいんだが。。。」
「おい、暗い顔すんなって!な!」
「あ、あぁ。」

病院へ到着する。やはり小さな街だな。病院の数自体少ないことも手伝って満員御礼の大繁盛ってわけさ。しかも数年前院長が変わりビルを小奇麗に建て直し、売上重視の経営方針に変えたらしい。そのかいあってかここ数年はかなり儲かっているって話だ。いやな話だね。

とりあえず順番を待つことにした。
1時間がたち、2時間、3時間と時間はどんどん進んでいくがクランケの数は減らない。それどころか増えてく一方だ。最初は文句ばかり言っていたクランケ達も次第に言葉が荒くなり、暴動寸前といっても過言ではない状態。看護婦の女の子が一人ずつに頭を下げている。感心だ。
だが、関心もしてられない。「ヨッタン」は更にグッタリしてしまっている。
トミーが呼びかけてもマバタキで合図をするのがやっとのようだ。
それをみた先ほどの看護婦が、なぜか俺達に目で合図を送ってきた。「こっちへこい」そういっているように感じた。その看護婦に呼ばれたままついていくと地下の暗い倉庫のような部屋に連れていかれた。
顔にクモの巣が引っ掛かる。
奥に小さな明かりが見えると、看護婦はその明かりもとへ行けという。
暗い倉庫に怪しいランプを一つだけ置いた机が1個、医学書やら資料やらで今にも崩れそうで落ちそうだ。
洗っていなそうな汚れた白衣、かもし出す雰囲気、胸の名札から察するに、どうやら新しい院長に追いやられた前院長らしい。

とにかく一刻を争う今は、前だろうが元だろうが関係ない。
医者だというのであれば一刻も早く「ヨッタン」を診てもらいたい。
そう思ったトミーは「ヨッタン」を診てくれるように頼んだ。
医者は何も言わず聴診器をあて、瞳孔を確認、手を胸に当てている。
つばを呑み込む俺達二人。
この病院に来る間、どんなことになっても受け入れる、そう自分に言い聞かせてきた。

医者はしばらく黙っていたが、聴診器をはずし、大きくため息をついた。

「先生!どうなんだよ!どうなってんだよっ!」
「やめろトミー!落ち着け。俺達が落ち着かないでどうする。」

トミーは今にも食って掛かろうという勢いで医者に問い詰めた。

医者はこう言った。

「この文鳥、ひょっとしてドラムをツツイテ、いや叩いているね?」
「は、はぁ、それが何か関係があるんですか?」
「関係あるかって?おおありだよ。ここまでくちばしを酷使させておいて気付かなかったのか?彼はもう限界だ。」
「げ、げ、、、限界って、おい!医者!テメー!限界ってどういう…」
「ヤメロッ!トミー!黙って先生の説明を聞くんだ。」
「すまん。」
「彼のくちばしはもう限界だ。これ以上ツツカセル、いや叩かせると命を落とす危険がある。とにかく今は絶対安静だ。そうすれば命に別状はない」
「そっかぁ、良かったぁ。。」
「でも先生、ということはヨッタンがドラムをツツク、いや叩くことはもう…」
「ああ、無理だ。」



…。




「…ん…、く、くそぉ・・・。クソッタレ-ッ!」
トミーはその場を飛び出した。きっと耐えられなかったんだと思う。俺だって今すぐにでも飛び出してやりたかったよ。だからアイツの気持ちはわかるんだ。仕方ない。ただ、仕方ないだけじゃ片付かないこの気持ち。悔しいんじゃない。辛いんじゃない。悲しいともまた違う。「クソッタレ-」。まさにそんな感じ。
トミーが取り乱している分、冷静さを保とうと必死に唇を噛む。腕を組んでいなければ手が震えているのがばれてしまいそう。一度家に帰って頭の中を一旦整理しようと、帰り支度を始めると医者が俺に話し掛けてきた。

「君達、バンドだろぅ?今後どうするんだ?」
「どうするって、いや今はそれどころじゃ…。」
「さっきの彼といい、君たちはほんとに不器用だな。それじゃ、新しいドラムなんてみつからないぞ。」
「だから今はそれどころじゃないって…」
「バカヤロー!そんなヌルいこといってんじゃねー!この文鳥、ヨッタンくんは確かにもうツツケナイ、いや叩けない!でもだからっておまえらには走りつづけて欲しいって、そういう思い、お前達に伝わってねーのかよっ!」
「わかってるよ!そんなことわかってる!だから余計にクソッタレなんだ!こいつの代わりがそんな簡単に見つかるんだったら…エフッ…みつかるん…だったら…グフッ…みつかる……クソッタレーーーーッ!」





「私が叩こう…。」





「……え?」





「だから、私が叩くと言っているんだ。」
「どういうこと?」
「なーに、僕も昔、ここの院長になる前は叩いていたんだよ。ドラムをさ。」
「そ、そんな。。。嘘だろ。。。そんなことって。。。」
「ふふ、嘘ではない。まぁ信じられないのも無理はないがな。。おい、アヤカくん、私はもうメスは置くよ。この病院にもウンザリだ。いいかね?」
「はい、先生。ただし一つだけ条件がございます。」
「何だね?」
「あたしも、このバンドに入ります。。。」







そうしてナッティーとアヤカを加え4人になった俺達ABBEY THE DINNGO!。
これからセカンドステージへ突入するのさ。


アビー著



 

 

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