煙々羅―えんえんら
しづが屋のいぶせき蚊遣の煙むすぼゝれて、
あやしきかたちをなせり
まことの羅の
風にやぶれやすきがごとくなるすがたなれば、
煙々羅と名づけたらん

―今昔百鬼拾遺上の巻・雲
倩兮女―けらけらおんな
楚の国宋玉が東隣に美女あり
垣にのぼりて宋玉をうかゞふ
嫣然として一たび笑へば、陽城の人を惑せしとぞ。
およそ美色の人情をとらかす事、
古今にためし多し
けらけら女も朱唇をひるがへして、
多くの人をまどはせし淫婦の霊ならんか

―今昔百鬼拾遺上の巻・雲
泥田坊―どろたぼう
むかし北国に翁あり。子孫のためにいさゝかの田
地をかひ置て、寒暑風雨をさけず、時々の耕作おこ
たらざりしに、この翁死してよりその子酒にふけり
て農業を事とせず、はてにはこの田地を他人にうり
あたへければ、夜な夜な目の一つあるくろきものい
でゝ田かへせ田かへせとのゝしりけり
これを泥田坊といふとぞ

―今昔百鬼拾遺上の巻・雲
古庫裏婆―こくりばば
僧の妻を梵嫂といへるよし
てつ耕録に見えたり
ある山寺に七代以前の住持の愛せし梵嫂
その寺の庫裏にすみゐて、檀越の米銭をかすめ
新死の屍の皮をはぎて餌食とせしとぞ
三途河の奪衣婆よりもおそろしおそろし

―今昔百鬼拾遺上の巻・雲