鬼一口―おにひとくち
在原業平二条の后をぬすみいでゝ
あばら屋にやどれるに鬼一口に
くひけるよしいせ物がたりに見えたり
志ら玉か何ぞと人のとひし時
露とこたへてきえなましものを

―今昔百鬼拾遺中の巻・霧
火間虫入道―ひまむしにゅうどう
人生勤にあり
つとむる時はとぼしからずといへり
生て時に益はなく、
うかりうかりと間をぬすみて一生をおくるものは、
死してもその霊ひまむし入道となりて、
灯の油をねぶり、
人の夜作をさまたぐるとなん
今あやまりてへマムシとよぶは、
へとひと五音相通也

―今昔百鬼拾遺中の巻・霧
岸涯小僧―がんぎこぞう
岸涯小僧は川辺に居て魚をとりくらふ
その歯の利き事やすりの如し

―今昔百鬼拾遺中の巻・霧
小袖の手―こそでのて
唐詩に
昨日施僧裙帯上断腸猶繋琵琶絃とハ
妓女亡ぬるをいためる詩にて、
僧に供養せしうかれめの帯に、
なを琵琶の糸のかゝりてありしを見て、
腸をたちてかなしめる心也
すべて女ははかなき衣服調度に心をとゞめて、
なき跡の小袖より手の出しを
まのあたり見し人あちと云

―今昔百鬼拾遺中の巻・霧